疏水分線

ソガ/疏水太郎のブログです。

ピストンの下りる音について

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『劇場版 響け!ユーフォニアム~誓いのフィナーレ~』を見てきました。

黄前さんと奏さんの出会いの場面で、黄前さんが胸に抱いたユーフォニアムのピストンだけ押すところが気に入っています。息を吹き込んでないし、そもそもマウスピースに口をつけてないので音は鳴らないのですが・・いや、音は鳴ってるのですよ、ピストンの下がる機械の音がね、ぷしゅっと。

いわゆる楽器の音色ではないもの、音色を奏でるための操作に伴うこの音は雑音かもしれないのですが、奏者のひとは演奏の場にこの音があることを必ず知っていると思います。人は唄い、楽器も唄うのですが、その唄う以外にただ生きてるだけで鳴るような音もある。心臓の音、呼吸の音、ピストンの上下する摩擦音。それもまた、楽器を触るときの愛しい音なのだと思えます。

 

私の思い出の中に、この誰にも届くことはない、だけど自分にだけ届いている楽器の駆動音があって、それはエレクトーンを電源を入れずに弾いたときの、ぽす、ぽす、という音です。ラブライブ!に同様の場面があったのでその時にもこの話をしました。ユーフォの話からはやや逸れるのですが、高校を卒業した将来のことなども今回の劇場版ユーフォと重なるように思えます。黄前さんがあの時あすか先輩に大学のこと聞くのって、吹奏楽も大事だけど、他にもたくさん大事なことがあってぐるぐるしていて、将来のこともものすごく気になってたからですよね。

bunsen.hatenablog.com

音がどこに響いて誰に届くのか、あるいはべつだん誰かに届いてなくたって良いのか、ということは深入りしていって良いように思えます。なんたって「響け!」ユーフォニアムですし。上のラブライブ!の話では、近所の学校の喧騒はお茶の水のビルの屋上まで届くのではないか、という想像を書きました。3年後に宇治を訪れて大吉山へ登ったときには、JR奈良線が宇治川橋梁を渡る音があの展望台まで聴こえてきました。

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大吉山から吹くトランペットは眼下の町まで届いていそうですが、届いてようがいまいが、ただ吹いてよと言われたから吹いたのが今回の劇場版の高坂さんでしたね。高坂さんが高所で吹くことには彼女なりの理由があるでしょうが、それはそうとしてなんですけども、彼女のそうした姿のおかげで、つまり高所で吹いているその絵を見る私にとって、彼女の音が遠くぜんぜん違う場所で映画を見てる私にまで届いてくるような気がする、ということはあるように思えます。

 

さて、大吉山のトランペットから冒頭のひそやかなピストンの音へ戻りましょう。黄前さんは奏者なのでユーフォニアムのピストンの音を知っているし、同じくユーフォニアムな奏さんももちろん知っているでしょう。奏者同士のちょっと符牒めいた仕草とその音に、音楽を続けることを巡るふたりの会話がもう始まっていたように思えるお話でした。

 

2019年4月20日 疏水太郎