疏水分線

ソガ/疏水太郎のブログです。

宇宙よりも遠い場所から見た宇宙

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アニメ「宇宙よりも遠い場所」でははじめ南半球の星が出てくることを期待していました。わたし星座、好きなんですよ。

後で南極観測隊について調べると、なるほど、太陽の沈まない白夜のうちは星も見えない。4人の旅のモデルとなった夏隊は白夜の始まった後にやってきて、終わったころにすぐ帰っちゃうんですよね。昭和基地の白夜は例年11月20日頃から1月20日頃まで、一方、夏隊が昭和基地へ着くのは12月下旬、基地を発つのは2月上旬となっています。

小淵沢天文台の建設地は地図(第11話)によると昭和基地よりも高緯度にありますので、白夜の期間が昭和基地より長くなります。ですので、小淵沢天文台で観測をするためには、必ず夏隊ではなく越冬隊に加わる必要があります。約束したし、いつかまた、そういう日も、ね。

よりもい本編で星座が描かれることはありませんでしたが*1、あきらめきれずオリオン座と冬の大三角の絵を描きました。南極だと夏に見えるので夏の大三角かも知れませんが・・。

4人の参加した夏隊が基地を発つ頃ってこんくらいかなぁ、と、2019年2月15日 22時(現地時刻)の夜空を描いてみました。南半球では日本で見る星座の形とは上下逆になって見えますので、オリオンも真っ逆さま、第3話の結月さんの夢みたいに地平へ落ちてゆきます。

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上の絵でめぐっちゃんが群馬から見てるオリオンとキマリさんがシドニーやフリーマントルから見てるオリオンが上下さかさまになるのが判りますでしょうか?

オリオンは赤緯0度前後の星座なので、北極点からは上半身しか見えなくなりますし、南極点からは常時地面に頭が埋もれて下半身しか見えなくなります。ちょっと可笑しいですよね。昭和基地では地平線から顔を出せるので、ちゃんと息継ぎできます。

 

よりもい本編では星座が出てきませんでしたが、エンディングアニメには南天の星座がたくさん描かれています。

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(画像は宇宙よりも遠い場所エンディングアニメより。)

南十字星以外の南天の星座が描かれているのは珍しいのではないでしょうか。マッドハウスのロゴのところにみずへび座、プリンみたいで可愛いテーブルさん座、みずへびのお腹の下あたりに輝いてるのがエリダヌス座の一等星アケルナルです。南天の一等星は日本からはほとんど見えないか全く見えないもので、数は少ないながら上の画面のなかには全て収まっています。マッドハウスのロゴのすぐ右に船の絵があって、りゅうこつ座の1等星カノープスが輝いています。船の上にある十字架はもちろんみなみじゅうじ座で、画面では目立ちませんが1等星がふたつあります。南十字のすぐ左で大きく輝いているのが1等星アルファ・ケンタウリ、その右のハダルも1等星です。

星と言えばよりもい本編では、南極星はあるのか、という話が第4話に出てきます。第13話ではそれを受けて、キマリさんが夜空に南極星を定めます。

キマリ「あれだよ、あれが南極星、決定!」

報瀬「あんな明るくないと思うけど・・」

「空にある星が全てと思うなかれ」(第4話の日向名言)ですよ、報瀬さん。夜空には空想のヴェールがかかることもある。

それはそうと、キマリさんは高いところにある明るい星を適当に指さしたと思うので、なんとなくカノープスかアケルナルかなぁ、と思います。南十字付近の星だったら南十字のほうに気をとられそうですから、南十字から遠い1等星に絞ってみました。

エリダヌス座の1等星アケルナルは私のいちばん好きな星ですが、ずっと南の星なので日本で見るのは難しくて、まだ見たことはありません。見たことないけど大好きで、憧れるってそういうもんじゃないですかね。

エリダヌスはギリシア神話に登場する川の名前で、川の流れをかたち取った星座です。オリオンの足元から流れ始めるこの川は、南の地平線にたどり着いて、その先端に1等星アケルナル、アラビア語の「河の果て」に由来する名前の星が輝いています。わたし、星だけじゃなく川も好きなのでこの星座のことは重ねて好きでして。

南の星であるためヨーロッパでは大航海時代まで公知でなく、アケルナルが発見されたことでエリダヌス座の果ては従来よりも南へ伸びることになりました。探検によって星座の果てのさらなる果てが見つかったことはロマンチックに思えます。南極もヨーロッパから見るとそうした河の果てとして目指された土地でした。アケルナルのことを思うとき、私もまだ見たことのない果てのことを思います。キマリさんの指差した星もアケルナルだったとしたら、嬉しいと思います。

 

最後に、大気圏内の現象ですがオーロラにも少し触れておきたいと思います。キマリさんたちが南極からの帰路に見ることのできたオーロラですが、めぐっちゃんの写真にもオーロラは写っています。オーロラは原理上、南極圏と北極圏で同時に発生して、地磁気の緯度経度が同じ場合、見える形もほとんど同じになります(詳細はこちらで。 http://polaris.nipr.ac.jp/~aurora/nsato_conj_obs.html/index.html)。なので、キマリさんとめぐっちゃんは南極と北極で同じ時間に同じかたちのオーロラを見ていたかもしれませんね。

だけど、違うものは違ってて、遠く離れたその場所から見えるオリオン座はさかさまで。第10話のキマリさんは《絶交だって言われたんだけど、私は友達だと思ってて。》と言ってますので、キマリさんとしては絶交無効が言い逃げみたいになっちゃってて、めぐっちゃんの同意を明に得てないと思ってるぽくて。キマリさんとめぐっちゃんというひとつの関係は、絶交で友達、という見る側によってさかさまのままで、それでもまだ続いています。

ふたりの別れからこのかた、汲めども尽きないキマリさんによる連帯のメッセージを、めぐっちゃんはもうそのままには受け取れない。だから、めぐっちゃんは《おまえのいない世界》へと歩を進めました。そこはたぶん、キマリさんがいないけどキマリさんのいる場所で、めぐっちゃんがいないけど、めぐっちゃんのいる場所で、この地上にそんなどうかしちゃってる場所があるのか、と思うのですが。

もしかすると、ひとつのものを見てひとつのものがさかさまに見えるくらい離れることが出来たならば、さかさまオリオンには時とかたちのかみ合ったみたいなヴェールが重なって見えることがあって、ごく稀な符合かもしれないけど、ふたりはそうした瞬間の気持ちを抱えることで、一緒でいられるんじゃないかな、とめぐっちゃんの送ってきたオーロラの写真に思います。

 

  (2018年5月6日 疏水太郎)

 

 

※説明のためアニメ作中の画面を引用させていただきました。引用に際しては、トリミングを行っております。

 引用されたアニメ作中の画面の著作権は、(C)YORIMOI PARTNERS 様にあります

 

*1:その後、第7話の蓄光塗料の夜空がじっさいの星の並びであることが判りました。https://twitter.com/canalsphere/status/1000363490668761093 また、TTS@TransTerraScape さんが第13話のオーロラの空がじっさいの星の並びにほぼ一致することを発見されました。すごい。 https://twitter.com/TransTerraScape/status/1000391144532951040