疏水分線

ソガ/疏水太郎のブログです。

「狂えるオルランド」におけるマーリンの墓について

 

狂えるオルランド

狂えるオルランド

  • 作者: ルドヴィコアリオスト,Ludovico Ariosto,脇功
  • 出版社/メーカー: 名古屋大学出版会
  • 発売日: 2001/08
  • メディア: 単行本
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アリオスト「狂えるオルランド」(脇功訳)に登場するマーリンの墓の場所が判りにくかったため、場所のヒントとなる記述を整理しました。

先に答えから書きますと、マーリンの墓の場所は、パリより3、4日離れたポンティエ(原文:Pontiero)の近くの森にある洞窟かと思われます。

マーリンの墓がポンティエの近くの森にあることは第7歌で示されますが、このポンティエが現代のどの土地に相当するのかは明らかではありません。ポワティエ(Poitiers)とするのは安易に思えたため、別途、本文の記述より推測したいと思います。

マーリンの墓が登場するのは第3歌で、ここは第2歌の最後で女騎士ブラダマンテが悪党ピナベルによって落とされた洞窟の先となります。まずはブラダマンテのここまでの足跡を追いましょう。

ブラダマンテの初登場は第1歌で、ピレネーの戦場から馬で2、3日ばかりの森の小川となります。ブラダマンテは、ここでカフカス王サクリパンテと勝負します。

その後のブラダマンテは、第2歌において、森を横切り、森に次いでは山を越え、美しい泉に着きます。もはやどこまで行ったか判りませんね。ブラダマンテはこの泉で悪党ピナベルと出会い、二人で再びピレネーにある妖術使いの居城を目指します。ピナベルがブラダマンテを洞窟に落とすのはこの道中となります。

さて、第3歌までの記述ではポンティエの場所がはっきりしませんので、後ろの記述を参考にすることとします。ブラダマンテは後にピナベルを誅殺しますが(第22歌)、その場所がポンティエ伯の領地の近く、アンセルモ伯の領地アルタリーパであったと語られます(第23歌)。第22歌のほかの記述を見ても、ブラダマンテがピナベルによってマーリンの墓のある洞窟へ落とされた場所ポンティエと、ブラダマンテがピナベルを誅殺した場所アルタリーパはあまり離れていません。

のちにパラディン・オルランドがアルタリーパを訪れて、そこから馬で2日ばかりの場所に牛飼いの家のあることが判ります(第23歌)。この牛飼いの家は美姫アンジェリカと兵士メドーロが結婚した場所で、第19歌を読めばパリ近郊であることが判ります。

パリ近郊にある牛飼いの家から2日ばかりのアルタリーパ、の近くにあるポンティエは、だいたいパリから3日か4日くらいの場所と考えて良いように思われます。

それってポワティエじゃないの、と思わなくもないですが、そこは定めないものと致します。

 

なお以下はポンティエの場所のヒントとなる記述を整理したものですので、ここまでの話を読む参考としてください。

 

■ 第1歌
・皇帝シャルルの軍、ピレネーの山裾にて、イスラム軍に敗走する。
・皇帝シャルルの陣(パヴァリア公の幕舎)より、美姫アンジェリカ、馬で逃走する。
・カフカス王サクリパンテ(イスラム軍)、美姫アンジェリカに恋をして、東の果ての地よりピレネーの戦に参加するも、アンジェリカを見つけられず、森の小川で悲嘆に暮れる。
・美姫アンジェリカ、馬で2日逃走した先、この森の小川にてカフカス王サクリパンテと出会う。
・森の小川にて、通りすがりの女騎士ブラダマンテ、カフカス王サクリパンテと勝負し、サクリパンテを落馬させる。

 

■ 第2歌
・女騎士ブラダマンテ、カフカス王サクリパンテを落馬させた後、森を横切り、森に次いでは山を越え、美しい泉に着く。
・女騎士ブラダマンテ、美しい泉にて、一族の敵であるアンセルモ伯の子、悪党ピナベル(ピナベッロ)と出会う。
・女騎士ブラダマンテ、悪党ピナベルと共に、妖術使いの居城を目指して出発する。
 (妖術使いアトランテの居城がピレネー山にあることは、第4歌で語られる。)
・悪党ピナベル、途中で道を誤ってそれて、小暗き森の山に辿り着く。
・悪党ピナベル、女騎士ブラダマンテをこの山肌の洞窟へと落とす。

 

■ 第3歌
・女騎士ブラダマンテ、洞窟の奥にあるマーリンの墓に辿り着く。

 

■ 第7歌
・第3歌のマーリンの墓はポンティエ(Pontiero)の近くの森にあることが示される。

 

■ 第19歌
・パリの戦場にて、ムーアの兵士メドーロ、スコットランドの王子ゼルビンの率いる騎士より致命傷を受けて倒れる。
・通りすがりの美姫アンジェリカ、致命傷の兵士メドーロを手当し、近隣の牛飼いの家に逗留する。
・美姫アンジェリカ、兵士メドーロ、牛飼いの家にて結婚する。

 

■ 第22歌
・女騎士ブラダマンテ、ポンティエ伯の持ち城のひとつに居留するアンセルモ伯の息子、悪党ピナベルを、その近隣の森にて誅殺する。

 

■ 第23歌
・ピナベルが誅殺されたのは、ポンティエ伯の領地の近く、アンセルモ伯の領地アルタリーパであったと語られる。
・スコットランドの王子ゼルビン、ピナベル殺しの冤罪でアンセルモ伯に捕らえられる。
・スコットランドの王子ゼルビン、ピナベルが誅殺されたのと同じ場所で死刑に処される寸前、パラディン・オルランドによって救出される。オルランドは一族の敵であるアンセルモ伯の一族百人余りを屠ったり、蹴散らしたりした。
・この戦闘後、ある川のほとりで休むオルランド一行の前に、タタール王マンドリカルドが現れる。
・パラディン・オルランド、タタール王マンドリカルドを2日にわたって馬で追い、牛飼いの家(第19歌。パリ近郊。)に宿泊する。
・パラディン・オルランド、美姫アンジェリカの結婚を知って正気を失う。