疏水分線

ソガ/疏水太郎のブログです。

アリーテ姫

アリーテ姫 [DVD]

アリーテ姫 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2002/12/21
  • メディア: DVD
 

 

「アリーテ姫」2002年11月30日にレンタルビデオで見たときの感想をこちらに載せておきます。見たことがある人向けの感想です。

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アリーテ姫.魔法の使い方が上手だと思いました.ボックスの魔法はたった一つきりですが,何も出来ないようでいてその実いろいろやれてしまっていた人です.なにしろかくも堂々と姫君をさらってゆくのですから.しかもあらかじめ仕組んだプログラムのみで.流星雨の夜,グロベルに流星の正体が人工星の欠片だと物語るのもたいした想像力でした(それは翌日,真実となってしまうのですが.)そんな彼が魔法を一つしか使えないと思い込んでいるわけは,何も学ばぬ子供の頃に同族が滅んでしまったからで,大人になれなかったことを誰を恨むでもなく自分を恨み,そして,巨大ボックスが現れた時にアリーテが言うように彼が自分を自分でおとしめているからでした.アリーテは酷い目に遭わされているのでボックスが周りにやつあたりしてると言うのですが,彼が実際やつあたりしてるのは(アリーテを除くと)自分の作ったカエル男くらいのものでして,村人にとっては怖いけれど水をくれるじーさんに過ぎなかったと思います.天涯孤独な彼が同族を求める心は全く正当なもので,せめて自分を恨むのはよしなさい,きっといいことあるんじゃないかな,という,それが彼の二つ目の魔法になるでしょうか.魔法が一つしかない状況には別の工夫があって面白いです.

 

アリーテが魔女から預かった最も強くて最も性質の悪い魔法である「三つの願い」は,彼女が自分の意思で選ぼうとしていたら鼻にソーセージの例を挙げるまでもなくろくな結果にならなかったと思います.しかし,二つ目の願いまではボックスの魔法に相殺されて「自動的に」くだらない願いとなりました.地下牢に描かれた窓と書き割りの夜空,そして刺繍.くだらなく美しく綴られた世界に時も知らず過ごした日々があればこそ,それはアンプルのひと言で内と外がひっくりかえって,アリーテの中に物語を探し求め始めました.私がかぶりつくように見ていたのはこのへんです.アリーテは,昔そういう姫君がいたという話を思い出しました.ボックスの作ったアリーテ像と今のアリーテとはずっとチャンバラをやっていたので,今のアリーテが昔のアリーテを連れてきたから二対一でなんとか勝てたみたいです.それでまずボックスの魔法は解けました.三つ目の願いとしてボックスがアリーテに誓わせようとした言葉は彼の失敗によって救われました.アリーテが一筋縄でいかぬ姫君であることは千里眼で知っていたはずなのに,自分の魔法で彼女を清楚でくだらない姫君に変えている間に忘れてしまったのか,そこをアリーテに付け入られました.およそこれくらい幸運と機転とがあれば,まじないは良い方向へ反転すると思われます.ボックスの魔法がアリーテに対して有効でないのは,その力が魔女の「三つの願い」を退けるために向かっているからで,ボックスが悪い魔法使いであると同時にアリーテの三人目の援助者であったというのも,気持ちの行き帰りがあって面白かったと思います.最初の魔女だって善いも悪いもなかったわけで.

 

アリーテの行動が周りの人には呪いであるように見えて,それをボックスが魔法で「元の姿」に変身させてしまうのもおかしくて良いです.そんな風に最初は痛快なのだけど最後になるほどボックスの扱いがかわいそうなので,アリーテに対しては,このひよっこが,世間の荒波に揉まれて泣くがよいわ,と思わなくもない,というかそれボックスも同じことを言ってましたが.それにしたって彼女は嬉々として自分からそうしてしまいそうなところが,わたしたちの勝ち目のないところです.

 

 

こんな風に文章を書いているうちに,じわじわと楽しくなってきました.そもそもボックスは「閉じて誰かを待ち続けるような人」がくだらないものだと判っていたからこそ,アリーテを魔法でそのように変えることが出来たのでした.端っから転倒して始まるこの話は愛しい.