疏水分線

ソガ/疏水太郎のブログです。

シャルルマーニュ伝説のアポリン

「ローランの歌」(オックスフォード写本、12世紀)ではイスラムが多神教であるような誤解が見られるのですが、アリオストの「狂えるオルランド」(1526年)では、アリオストは一神教と知っててなおそう書いてると思われますので、そのへんの話。

ローランの歌でサラゴッス(現スペインのサラゴサ)の王マルシスが祈るのは、マホメット、アポリン(第1節)、テルヴァガン(第47節)のイスラムの三尊者である、と筑摩の佐藤輝夫訳の註釈にあります。加えて註釈には「アポリンはギリシア神話のアポロの対格から来たもの。」とあります。

一方、狂えるオルランドのイスラムは、マホメットとトリヴィガンテ(ローランの歌におけるテルヴァガン)の二者を神格化しています(第12歌、第38歌)。おや、アポリンはどこへ行ってしまったのでしょう?狂えるオルランドの脇功訳注第12歌(13)では、「トリヴィガンテは、マホメット、アポリンとともにイスラム教の三主神を形成し、キリスト教の三位一体と照応するものと見なされていた。」とあるのですが、本編にアポリンは登場しませんね。

ギリシア世界への憧憬とともにフランスとイスラム諸国家の騎士の狂騒を描く「狂えるオルランド」では、鍛冶神ヴルカーノが造ったヘクトルの甲冑をはじめ、レトリックのなかにも頻繁にギリシア神話の神々が登場します。そのなかにはもちろんアポロン(ポイボス)も多数登場しています(巻末索引のアポロンの項参照)。ここではギリシア世界を参照するためにアポロンを織り込んでいるため、ローランの歌で知られるイスラムの神、アポリンのほうはややこしいからあえて外して、マホメットとトリヴィガンテのみを残したものと思われます。