疏水分線

ソガ/疏水太郎のブログです。

書籍「宇宙よりも遠い場所」を抱いて

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よりもいの第1話にはキマリさんと「宇宙よりも遠い場所」という本との出会いもあったように思われます。それは放課後に親友からの誘いを断ってまで図書室へ探しにいった本で、手に取ってそのまま心奪われたように頁をめくり、呉への旅にも一緒に連れて行ったこと、新幹線で眠るキマリさんの手元にはこの本があって、それはもう夢にまで持ってゆきそうに見えて。

キマリさんが「宇宙よりも遠い場所」に触れる様子は第2話以降ありませんが、第1話でこの本がキマリさんの胸に刺さる様子が素敵だったので、少し話を広げてみたいと思います。誰かの好きな本のことを考えるのって好きなので。

小淵沢貴子さんが書いた「宇宙よりも遠い場所」は、第1話の図書室で覗える範囲では南極と南極観測隊の日々を美しい写真とともに紹介する本のようですが、第7話ではそこに貴子さんの詩的な文章も添えられていることが明らかになります。

宇宙よりも遠い場所
それは決して氷で閉ざされた牢屋じゃない

 

あらゆる可能性が詰まった
まだ開かれていない世界で一番の宝箱

(第7話より)

貴子さんのこの言葉を聞くとき、作中でたびたび挿入されるキマリさんのモノローグが思い浮かぶのでした。それはキマリさんの内なる声のようでもあり、旅を振り返るような声でもあり、その時そこに居る人たちの現前する声を離れた書き言葉らしい叙情性をもって作品を彩っています。両者の相通じる詩情は果たして、あの第1話における本との出会いがきっかけに生まれたのではないかしら。

よりもいは作中のことにいちいち照応があるタイプの作品ですので、ここで第1話の《高校に入ったらしたいこと》の《日記をつける。》に触れておきたいと思います。キマリさんはものを書く活動というのをこれまでしてないので、高校に入ったらしたいことの一つとして日記をたぶん漠然と挙げていました。そこに貴子さんの言葉との出会いがあって、それがきっかけで芽生えた言葉を紡ぐことへの思いが、キマリさんのモノローグには溢れているように思えて。

キマリさんのあの声は、貴子さんの言葉を受けて、それを追いかけるようにして何らかの形で綴られたキマリさんの日記なんじゃないかな。いつ、どのようにして書いたかは判んないですけど。

よりもいはその場で声として伝えあった言葉や表情、しぐさや姿勢、その見せ方によって動かされる部分の目立つ作品ではあるのですが、目に見えるけど見えないもの、たとえば結月さんの夢、声に聞こえるけど聞こえないもの、たとえばキマリさんの日記みたいなモノローグによって、立体的に構成されています。ドラマに詩が伴うときの質感の重なりは、あるいは絵にもそういうところがあって、オープニングとエンディングのアニメは手描きの世界を伴って、たとえば頭からお花が生えてるのも質感の異なるチャンネルを開いてくれています。

エンディングの花の絵、ほんといいですよね、と書籍「宇宙よりも遠い場所」にことよせて改めて思われるところです。 

 

(2018年5月20日 疏水太郎)