疏水分線

ソガ/疏水太郎のブログです。

2020年エアコミケ(C98)情報

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エアコミケ企画として、Yuzuki Visual Maniax 準備号3を無料配布します。C96、C97 で頒布した準備号1と準備号2を合本したものです。

準備号1の冊子版は印刷数が足りませんでしたので、この機会にご覧頂けると嬉しいです。

エアコミケC98新刊

Yuzuki Visual Maniax (準備号3)

アニメ「宇宙よりも遠い場所」の白石結月さんの装いについて、コーディネートや着回し、持ち物などの絵を描きながら語る本です。

本編中に登場する結月さんの衣装と小物を全て分類し、解説付きで掲載しています。

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準備号1のデータシートの文字サイズは、なるべく読めるような大きさへ修正済みです。

■ 形式

 A4、40ページ、フルカラー、PDF形式。

■ 本書は2020年5月2日から5日までの4日間限定で配布いたします。 

印刷版はなく、電子版(PDF)のみの無料配布となります。

(配布は終了しました。)

 

 

既刊「サウスポールを探しに」

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■ 概要

 宇宙よりも遠い場所(よりもい)の小説、エッセイを中心としたファンブックです。 私がよりもいに触れた日々の中から、星や夢、夜と言葉、季節、水辺に関する美しい要素を拾い上げて一冊の本に綴り合せました。

■ 形式

 B5オフセット、44ページ。第2版。初版時(C95)にあった付録はありません。

■ 頒布方法

 メロンブック様のこちらより通販となります。

 

以上です。それでは、どうか、ごゆるりと。

カードたちの物語

たのしいカードたち

「宇宙よりも遠い場所」の同人誌は、自分の好きなものを詰め込もうという気持ちで制作しています。二次創作小説「真昼のアステリズム」も、企画を練っているうちに情報のスケッチされたカードと会話を中心とした本文のお話とがゆるく響き合うような構成が導かれたのは、まったく私の好みによるものでした。

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カードを作品制作に用いることへの私の思い入れについては、こちらからダウンロードできる文章でも触れました。あと、私がはがきを使った作品(はがきろいど)を作っているのも同じような気持ちです。カードというのは見て楽しい、触って楽しい、贈って楽しい、作って楽しい。

soga.booth.pm

 

カードとブログ

今日はカードについてのまた違った話をしたいと思います。よりもい関係でいろいろやりたいことがあって、これまで作ったサイトを別のサーバへ移転する作業をしていたところ、2年間ほど書いていたあるブログはそのまま引っ越せなくて、中身だけうまいこと移動する必要が出てきました。

ブログというのは、ひとつひとつのエントリ(記事)がはがきみたいなものでして、ブログシステムははがきを新しいものから順に並べたり、カテゴリにわけて束にしたり、必要なはがきを検索して抜き出すことができるようになっています。なので、私がブログに寄せる思いというのは、私がカードに寄せる思いと親しいものになっています。

このブログを、rNoteと呼ばれる以前のブログシステムからWordPressというブログシステムへ移動させる必要があって、作業するうちに、ああ、むかしrNoteでエントリ(つまりカードのようなもの)を整理しようとしたときに考えていたことと、上の二次創作小説「真昼のアステリズム」のこととは繋がっていたなぁ、と改めて気づいたのでした。

よりもいが私の過去を掘り起こしてゆきます。

 

Woody-Rinnさん

rNoteは2004年にWoody-Rinnさんが開発したブログシステムです。Woody-Rinnさんはご本人がイラストレーターでもあるので、当時主流だったMovableType等のブログシステムだとデザインに凝ることができない、という不満から制作されたようです(rNoteサポートページのアーカイブより)。

ブログが使われるようになる前は、絵を描く人たちは自分のWebページをHTMLを書いてデザインして、ギャラリーを自由に作って公開してきましたので、当時のブログは窮屈なものだったと思います。私も1990年代に制作していたサイト(こちらです)と、その後、流行しはじめたブログとは、それぞれ狙いが違うとはいえ出来ることのギャップが大きすぎると思っていました。

Woody-Rinnさんは1990年代前半には16色CGツールの開発で広く知られていました。私自身は16色時代にCGを描いてなかったのでWoody-Rinnさんのことはイラストのほうで知りましたが、rNoteの狙いにはブログツールに対する絵描きの不満が汲み上げられているように思えたので、これでサイトを作り直してみることにしました。

 

f:id:kgsunako:20200229224405g:plain(キャラクタークロック用に描いた16色イラスト)

余談ですが、2000年代初頭にはPocketPCで16色のペイントツールが開発されて、PDA絵描きの人々に愛されました(Uenoさん開発のJINZO Paint)。私もそうやって16色CGを描いてみて、そこではじめて1990年代に16色CG絵描きさんたちの残した技法とそれを実現するツールの思想に触れることが出来ました。ドット絵(GIF)は今また形を変えて愛されていて、それを担う人がまるで変わっていても、思想みたいのが続いてゆくことを感じます。

 

rNoteでつくるイラストサイト

ブログで出来なくて困っていたことは、ブログはもともと小さな文章を1本の時系列で残してゆくのが狙いで、表示は縦に流れてゆくのですが、この考えは1ページの空間にたくさんのイラストを縦横に並べて表示するギャラリーを作ることとはだいぶ離れていました。ひとことで言うなら時間と空間の違いです。

rNoteはブラウザに表示させる内容を細かくデザインすることができましたので、ブログのようにも使えますし、凝ったデザインのギャラリーも作りやすくなっていました。

私がやりたかったことは、絵や日記、連載小説の描かれたカードを日常的にブログに投稿していって、それとは別に、過去に投稿したカードを自動加工したり必要なものだけ参照して、ギャラリーページや物語のまとめページを作ることでした。いまなら TwitterやWordPressである程度できることですが、当時のブログというのはまだまだものをつくる人にとっては窮屈に思えるものでした。

たとえばですけど、下の2つのカードは日記でして、それぞれ絵が添えられています。

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 こうして書き溜めたカードを集めたとき、絵やタイトル、日付を抜き出して、元のカードへのリンクも自動的につけてくれて、縦横自由に並べられるギャラリーページを作れるようにしたかったのです。

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 こういうことは、個別のカードのデータと、データを集める方法と、それを表示するときの見た目とをそれぞれ分けて扱うことで実現できます。あるときはカード1枚を絵日記みたいな見た目で見せて、またあるときは、たくさんのカードから絵とタイトルと日付とリンクとを抜き出して、それらを1つの大きなカードに2列で並べて表示させるという見た目にしたり。XMLと呼ばれる言語はこういうことをやるのに向いていて、上のギャラリーページを私がrNoteでつくる場合には、下のようなXMLの文書(カード)を1枚つくれば良いようにしていました。

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かつての携帯電話やいまのスマートフォンは、人が表現を受け取る手段を縦にスクロールする流れへと方向づけているため、横方向へも空間を拡げてゆく表現は見づらいものとなってしまいました。わたしはいまの縦にだけ流れてゆく世界は苦手です。

というのも、わたしが好きな絵の世界は、縦にだけ視線が流れるということはないからです。

 

 ふたたび、よりもい

南極探検の時代とカードとの緩やかな関係は冒頭の「サウスポールを探しに」初版付録(データ版)にて触れたとおりですが、戦後の登山家研究者たちはフィールド研究の過程でカードを使っていたのであって、成果物は本や論文となります。カードを机に並べてあちこち動かしてみるのは、物語のシーンを書き出して並べ直してみたりすること、あるいはカードゲームの盤面を想像してもらってもよいのですが、表現というよりは過程のことだと思われがちです。ただ、そういうカードが並べられて形を変えてゆくのを見たとき、その領域のことをよく知らなくてもなんだかわくわくする気持ちって起こらないでしょうか。成果物や勝負の結末にたどり着くところまで見ていなくても、プロセスは楽しいものです。

小説「真昼のアステリズム」における本文とカードとの関係は物語中では本文に基づいてカードが制作されたことになっていますが、私の小説の制作過程においては、カードを作りながら本文を書いたし、本文に合わせてカードを作ることもあれば、あまり関係ないけど好きだから描いたようなカードも交ざっています。あそこには、そうした過程の表現を残したかったのではないかと思われます。

 

その後のカードたち

rNoteでのページ作成は楽しいものでした。イラストや物語を描くだけじゃなくて、ポッドキャストをやったりもしていました。

ただ、使ううちにもっとこうしたい、という思いがあって、カードを空間に配置してゆくブログシステムを自作してからは、次第にそちらへ移行してゆきました。その後いろいろあって長らく塩漬けにしているうち、日常の画面はスマートフォンへと移っていって、空間的な広がりのある表現はそこにはあまり合わなくなってきました。だけど、空間というのは未だ、あるいは今でこそ実空間にも仮想空間にもいくらでも拡がってるものですので、また暮らしの中にこれまでと形を変えて表現が甦るんじゃないかと思っています。

今回は機会があってrNoteで制作したカードたちにWordPressという現在主流のブログシステムへ引っ越してもらうことにしました。rNoteはあれからだいぶ時が過ぎまして、 簡単な説明だけを残してサポートを終了しておられます。rNoteを独自にアップデートして現在のサーバ環境で動作させている方もおられますが、私がWordPressにもう慣れていたのでこちらへ来てもらうことにしました。

だいたいのブログシステムは先程述べたXMLという共通の言語でデータを扱えるため、rNoteとWordPressは全く異なるソフトウェアですが、データの移動はさほど難しくはありません。rNoteでやっていた物語のまとめページだけはWordPressでもできるよう少し調整して、ギャラリーはいまのスマートフォン環境に合うよう入り口だけは修正しました(中に入るとちょっと見づらい)。やや専門的な話になりますが、データのエクスポート・インポートはRSSで行って、rNoteはRSS1.0しか出力しないのをRSS2.0に修正したり、HTMLタグも出力するようにしたり、独自につけていたrNoteのタグに対応させたり、WordPress側のインポータにバグがあるのを直したりしました。

引越し後のページはこちらとなります。今後更新する予定はありませんが、昔つくったものはなるべく残してゆきたいと思っています。また10年もしたら引っ越しするでしょうけど、それまでカードたちにはここで暮らしていてもらおうと思います。

christmas.storybook.jp

 

疏水太郎

枕元のチッピー

よりもいギャグ小説「南極たぬきねこ」の別ENDです。

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「ペンギン饅頭号の元々の名前はしらせね。由来は知ってる?」

 

吟隊長の問いに答えたのは報瀬ちゃんでした。

 

「日本人で初めて南極へ到達した、探検家の白瀬矗です」

「白瀬が活躍した時代には、南極を目指す冒険者が沢山いた。その中でもイギリスのアーネスト・シャクルトンの冒険は広く知られているわ。シャクルトンの探検隊は氷に閉じ込められて、船を失い、だけど2年近くかけて全員が生きて帰ってきた。そう、少なくとも、人間はみんな生きて帰ってきた」

「だけど、虎猫のミセス・チッピーは帰ってきませんでした。南極脱出の旅には連れてゆけないので、犬たちと一緒に殺された」

「そうね。でも、シャクルトンの判断は正しかったし、隊員全員を生還させたのは偉業だったと思うわ」

「納得いかないー」

その夜。私はミセス・チッピーが死んだこと、チッピーと仲良しだったマクニッシュさんのことを思って怒っていました。

「ミセス・チッピーのこと、おはなしにしようと思う。マクニッシュさんと結婚するの」

「でもミセス・チッピーってたしか雄猫だわ」

「えーっ、なんでー」

「うーん、夫婦に見えるくらい仲が良かったんじゃないですか」

「じゃあ、ミセス・チッピーは毎晩、シャクルトン隊長の枕元に立ってるの」

「怖いな、おい」

「そしてこう言うの。ちゃんとお世話できないのに南極に動物を連れてきちゃダメにゃん、って。それ以来、南極には動物を連れてきちゃいけないことになったのでした」

「あまり怖くないですね」

「だけど動物が駄目なのはそういう理由じゃない」

「確かに南極条約とは違うが、そういう気持ちにもなるよな。タロとジロ思い出すと」

「今日の幽霊のことでもやもやしてるのをほっとさせたい気持ちがあって、なにかお話にすると良いなって」

「キマリさんは、そういう風にお話を書くのが向いているのかも知れませんね」

 

(南極たぬきねこ・小説家エンド)

 

2019年冬コミ(コミックマーケット97)情報

ソガの個人サークル「星影拾遺」はC97(2019年冬コミ)に当選しました。

頒布物はすべて「宇宙よりも遠い場所」(よりもい)で、新刊が

「Yuzuki Visual Maniax (準備号2)」

「結月さんコルクコースター」

の2つ、既刊が

「サウスポールを探しに」

です。

日時・スペース

12/28(土)東京国際展示場・南2ホール(1階)

南 オ 05b「星影拾遺」

C97新刊

【新刊(1)】 Yuzuki Visual Maniax (準備号2)

■ 概要

 アニメ「宇宙よりも遠い場所」の白石結月さんの装いについて、コーディネートや着回し、持ち物などの絵を描きながら語る本です。

 本編中に登場する結月さんの衣装と小物が全て分類され解説付きで掲載されています。

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 宇宙よりも遠い場所はなにかと事細かな作品ですが、登場人物の衣装についても限られた点数ながら上下の組み合わせや重ね着、着こなしによってバリエーションが幾つもあることに気付かれるかと思います。
 データの分類とレイアウトに時間がかかって、今回も前回に引き続き準備号となってしまいました。この準備号2では、前回掲載分の結月さんの装いの種類AからCまでに加え、残りの全ての絵と解説を収録しました。あんな結月さん、こんな結月さんを見つけた!という、シーンごとに私が発見をしたときの喜びを再びお伝えすることができれば幸いに思います。

 準備号1(冊子版)の内容は巻末の表と1枚絵以外(つまりAからCまでは)再録されています。はがき版の内容も再録となります。

■ 形式

 B5 インクジェット印刷、24ページ、本文フルカラー

■ 付録

 YUZU GRAPHIC (A6 インクジェット印刷、8ページ折り本、フルカラー)

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■ 購入者先着特典

 すばるんさんのよりもいコルクコースター

 

 新刊「Yuzuki Visual Manix (準備号2)」をお買い上げの方には、 すばるんさん(@subarun_yrmi の制作された手描きコースターを1枚差し上げます(先着順)。

 コースター一覧は次のツイートにありますので、ほしい物があれば事前にお選びの上、スペースにてコースターの番号をお伝え頂けるとスムーズにお渡しできるかと思いますのでよろしくお願い致します。

 twitter.com/subarun_yrmi/s


 

【新刊(2)】結月さんコルクコースター

 界隈で不意に流行したコルクコースターを私も描いてみました。6枚あります。

 先着順でお好きなものを選んでご購入になれます。イラスト入りの紙袋に入れてお渡しいたしますので、こちらも先着順でお好きなものをお選びください。

 数がないためお一人様一枚までです。

  

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既刊「サウスポールを探しに」

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■ 概要

 宇宙よりも遠い場所(よりもい)の小説、エッセイを中心としたファンブックです。 

 私がよりもいに触れた日々の中から、星や夢、夜と言葉、季節、水辺に関する美しい要素を拾い上げて一冊の本に綴り合せました。

 よりもいってそんな話だっけ?と思われるかもしれませんが、「まぁいいじゃん、それも《よりもい》だ」 と南極よりも広い心で受け止めて頂けると幸いです。

■ 形式

 B5オフセット、44ページ。第2版。

 初版時(C95)にあった付録は、今回は付属しません。

 

 

以上です。それでは、当日スペースにてお待ちしております。

アリーテ姫

アリーテ姫 [DVD]

アリーテ姫 [DVD]

  • 出版社/メーカー: 小学館
  • 発売日: 2002/12/21
  • メディア: DVD
 

 

「アリーテ姫」2002年11月30日にレンタルビデオで見たときの感想をこちらに載せておきます。見たことがある人向けの感想です。

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アリーテ姫.魔法の使い方が上手だと思いました.ボックスの魔法はたった一つきりですが,何も出来ないようでいてその実いろいろやれてしまっていた人です.なにしろかくも堂々と姫君をさらってゆくのですから.しかもあらかじめ仕組んだプログラムのみで.流星雨の夜,グロベルに流星の正体が人工星の欠片だと物語るのもたいした想像力でした(それは翌日,真実となってしまうのですが.)そんな彼が魔法を一つしか使えないと思い込んでいるわけは,何も学ばぬ子供の頃に同族が滅んでしまったからで,大人になれなかったことを誰を恨むでもなく自分を恨み,そして,巨大ボックスが現れた時にアリーテが言うように彼が自分を自分でおとしめているからでした.アリーテは酷い目に遭わされているのでボックスが周りにやつあたりしてると言うのですが,彼が実際やつあたりしてるのは(アリーテを除くと)自分の作ったカエル男くらいのものでして,村人にとっては怖いけれど水をくれるじーさんに過ぎなかったと思います.天涯孤独な彼が同族を求める心は全く正当なもので,せめて自分を恨むのはよしなさい,きっといいことあるんじゃないかな,という,それが彼の二つ目の魔法になるでしょうか.魔法が一つしかない状況には別の工夫があって面白いです.

 

アリーテが魔女から預かった最も強くて最も性質の悪い魔法である「三つの願い」は,彼女が自分の意思で選ぼうとしていたら鼻にソーセージの例を挙げるまでもなくろくな結果にならなかったと思います.しかし,二つ目の願いまではボックスの魔法に相殺されて「自動的に」くだらない願いとなりました.地下牢に描かれた窓と書き割りの夜空,そして刺繍.くだらなく美しく綴られた世界に時も知らず過ごした日々があればこそ,それはアンプルのひと言で内と外がひっくりかえって,アリーテの中に物語を探し求め始めました.私がかぶりつくように見ていたのはこのへんです.アリーテは,昔そういう姫君がいたという話を思い出しました.ボックスの作ったアリーテ像と今のアリーテとはずっとチャンバラをやっていたので,今のアリーテが昔のアリーテを連れてきたから二対一でなんとか勝てたみたいです.それでまずボックスの魔法は解けました.三つ目の願いとしてボックスがアリーテに誓わせようとした言葉は彼の失敗によって救われました.アリーテが一筋縄でいかぬ姫君であることは千里眼で知っていたはずなのに,自分の魔法で彼女を清楚でくだらない姫君に変えている間に忘れてしまったのか,そこをアリーテに付け入られました.およそこれくらい幸運と機転とがあれば,まじないは良い方向へ反転すると思われます.ボックスの魔法がアリーテに対して有効でないのは,その力が魔女の「三つの願い」を退けるために向かっているからで,ボックスが悪い魔法使いであると同時にアリーテの三人目の援助者であったというのも,気持ちの行き帰りがあって面白かったと思います.最初の魔女だって善いも悪いもなかったわけで.

 

アリーテの行動が周りの人には呪いであるように見えて,それをボックスが魔法で「元の姿」に変身させてしまうのもおかしくて良いです.そんな風に最初は痛快なのだけど最後になるほどボックスの扱いがかわいそうなので,アリーテに対しては,このひよっこが,世間の荒波に揉まれて泣くがよいわ,と思わなくもない,というかそれボックスも同じことを言ってましたが.それにしたって彼女は嬉々として自分からそうしてしまいそうなところが,わたしたちの勝ち目のないところです.

 

 

こんな風に文章を書いているうちに,じわじわと楽しくなってきました.そもそもボックスは「閉じて誰かを待ち続けるような人」がくだらないものだと判っていたからこそ,アリーテを魔法でそのように変えることが出来たのでした.端っから転倒して始まるこの話は愛しい.

やがて君になる 第8巻

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

やがて君になる(8) (電撃コミックスNEXT)

 

「やがて君になる」最終巻。星を見上げて、光へ手を伸ばしてきたお話の、最高の結びでした。

 

第1話「わたしは星に届かない」第4話「まだ大気圏」・・と繰り返し光と星へ寄せられてきた気持ちは、空へ垂直へ伸ばしていたつもりの手が、実は水平に、隣のあの人へずっと伸ばし続けていたのだという気付きとともに、掴む手のひらの中で完結しました。

絵のなか、言葉のなかで、星をモチーフとした叙情が最高の輝きを見せる漫画だったと思います。

 

星図と星座絵(メモ)

去年の冬コミ本のためにエリダヌス座アケルナルの歴史を調べたとき、現代の私たちにとって見慣れた星図のうち、星座の絵と星の位置とを重ねあわせたものは意外と新しいらしいことを知りました(スーフィー「星座の書」964年)。考えてみると、星座の絵を透視するように星の位置を重ねて描くことは高度な絵画技法であるように思われます。

星図の歴史についてはアン・ルーニー「天空の地図」(2018年)に詳しいのでそちらをご覧ください。

天空の地図 人類は頭上の世界をどう描いてきたのか

天空の地図 人類は頭上の世界をどう描いてきたのか

  • 作者: アン・ルーニー,ナショナルジオグラフィック,鈴木和博
  • 出版社/メーカー: 日経ナショナルジオグラフィック社
  • 発売日: 2018/03/15
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
  • この商品を含むブログ (2件) を見る
 

 星座を構成する星の位置はどのように描かれてきたのか、ということに興味があるので調べることを続けています。以下は最近読んだ、近藤二郎「わかってきた星座神話の起源 古代メソポタミアの星座」(2010年)の個人的なメモです。

・古代メソポタミアで星座が考案されたのは、少なくともシュメールの都市国家時代(B.C. 2500~2113頃)に遡る。
・最も古い図像資料はクドゥル(境界石:王が王族や祭司、高官達に土地などを与えた際の証書の文章とシンボルが刻まれた石)に描かれているが、最古でもB.C.1400のもの。
・星と星座について記された粘土板ムル・アピンは最古のものでB.C.700の写本が残されており、原板はB.C.1000までは遡れると推定。
・つまり、星座に関する図像も粘土板の文献も、現在のところ都市国家時代のものがない。

・ムル・アピンには、天空をおよそ北極星の周囲、高緯度、中緯度、低緯度にわけて星座の名と説明が記載されている。星の位置は叙述による。例えば「その星は、荷車のシャフトに位置する」。赤緯・赤経に相当する記載はないが、星の入りや星の出に関する諸情報を含む。

・クドゥルの図像の一部は星座絵であると考えられているが、クドゥルの図像に星の位置を描いた星図はない(とは明記されてないが、なさそう)。

・古代メソポタミアの星座とその天空における位置を復元する方法として、上記資料と、後のプトレマイオス朝エジプトで描かれたデンデラの天体図(B.C.50ごろ)から遡る手法が提案されている。

わかってきた星座神話の起源―古代メソポタミアの星座

わかってきた星座神話の起源―古代メソポタミアの星座

 

現存する資料からは、1000年単位での推定に推定を重ねないとシュメール都市国家時代の星座を天空に描くことができない、のだけども。

いま残ってはないけど、当時のウルクの夜空を粘土板に刻んだり、なんなら地面に描いたって人もいたのではないか、などと想像するわけです。

 

【おまけ】

いまどきの天文シミュレータは無料のやつでも年周視差から惑星の固有運動まで計算してくれます(https://stellarium.org/)。ですので、B.C.2655 年のウルクの街の様子を再現するのは簡単ではありませんが、B.C.2655 年のウルクの空を再現することはそう難しくありません。

では。現代の暦ですが、B.C.2655 年11月24日21時のウルク市の夜空です。同じ空を見ていますよ、ほんと。

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天の北極がいまのこぐま座から離れてるのですが、ぱっと見わかんないですよね。